グローバル化が加速させる酪農業の明るい未来

 北海道の酪農業を語る上で、グローバル化の話は欠かせません。ここ数年、ユネスコの無形文化遺産に登録された「日本食」を背景として企業ばかりではなく、日本の多くの飲食店や個店も海外に進出しています。さらに、日本産を中心に扱う海外飲食店や小売店も増え、「MADE IN JAPAN」製品の多くは、高品質や美味しさ、健康なイメージ等により、海外から高く評価されています。
 例えば、乳製品では、かねてより日本製の粉ミルクが中国で絶大な人気をもち、2013年はその買い占めに関して様々な問題が報道されていました。これは日本産の製品に対する信頼性や安全性の評価が高かったからと言えるでしょう。
 また、北海道産のロングライフミルクは海外でも高評価を得ています(参考1)。ロングライフミルクとは特定のパッケージの仕方、生乳の処理過程を総称したもので、未開封なら賞味期限が2~3ヶ月くらい長持ちする牛乳です。しかも常温流通が可能なため、輸出に適しています。各国にあるロングライフミルクの中でも北海道産が評価を得ているのは、その品質の高さが理解されてきているからと考えられます。
 また生乳を利用した商品でいえば、タイ、マレーシア、シンガポール等で展開する北海道産の牛乳にこだわったアイスクリーム店が、2013年日本に出店しました。既にアジア圏では60店舗以上の展開をしているこのお店は、海外で素材に対する評価を得て、逆に日本に進出してきた例となります。お店のオーナーは、北海道生まれの北海道育ちで、酪農王国北海道の優秀な農作物を利用した製品を世界に広めたいという想いから、北海道の牛乳にこだわって商品を製造しています。そのこだわりの商品がアジア各国に、評価され、受け入れられたのでしょう。まさに酪農が北海道ブランド、日本ブランドを牽引した事例といえます。
 フランスは「ミシュランガイド」という格付けシステムで、国内に多く存在するレストランのグローバル化を助長しました。その結果、格付けされたレストランで提供されるワインやチーズも世界に広まり、フランスの食ブランドを形成する大きな要因を作り出しました。すでに日本の中で大きなブランドパワーを持つ北海道産の乳製品が上記の事例のように海外進出していくことで、フランスのワインやチーズ同様、北海道酪農のイメージを広く訴求していくことになるでしょう。

ポテンシャルを活かす基盤づくり

 北海道では、北海道経済連合会、JA北海道中央会、北海道経済産業局、北海道農政事務所、北海道が事務局となり、平成22年5月に発足した「食クラスター連携協議体」によって、農畜水産業の単体ではなく、食に関連する企業や団体とも連携を深めています。優位性のある農畜水産業を核として、食に関連する幅広い産業(食品加工、バイオ、機械製造、流通、IT、観光等)と連携・協働する体制を強化し、食資源の高付加価値化、商品開発および日本や海外への販売促進を行うことを目標としています。これを行政や金融機関がバックアップするかたちが取られており、「産学官金」連携体制で北海道の農業・酪農ビジネスを支える体制が強化されています(参考2)。
 さらに、取り組みは消費者が見えるところだけではありません。全国的に酪農業のIT化・クラウド化も進んでいます。例えば、北海道では自動給餌システムを産官学で開発し、それまで4〜5時間かけていた牛への給餌作業を約15分と大幅に短縮することに成功し、国が選ぶ農商工連携88選(平成20年)にも選ばれています(参考3)。
 また、飼料給与を含む飼育管理データなど、日々の作業管理情報をパソコンやクラウドに蓄積する方法を取り入れている生産者も徐々に増えています。
 付加価値を創り、商品価値を高め、ブランドを高めるだけでなく、ノウハウを蓄積することで、管理作業の分担化が可能になり、後継者へと繋げていけるようになります。こうした取り組みが酪農業でも始まっています。

北海道の酪農が持つ強さ

 「酪農が『北海道』ブランドに与える影響力」でも記載しているとおり北海道ならではの牧草地が織りなす景観は「北海道」のイメージとして定着しており、観光マーケットにおいても重要な存在です。また、そこで作られる数々の北海道の牛乳・乳製品は、国内だけでなく、海外のマーケットでも評価されつつあります。
 海外マーケットで評価される北海道酪農は、日本の消費者にもますます支持されていくと考えられます。現在、日常の「ワンランク上」のスーパーやコンビニが好調です。その理由として多少高いお金を出しても、おいしいもの、上質なものを食べたいという消費者が増加していることがあげられます。この購買層をマーケティング用語ではアーリーアダプターと呼び、ソーシャルメディアや口コミによって、自分のオススメを人に広めていきやすい層であると言われています。
 「ワンランク上」のスーパー、コンビニではワイン、チーズ、生ハム、オシャレなお惣菜など、他のスーパーやコンビニにはない地方特産品などを取り揃えており、高付加価値化された商品が多数並んでいます。アーリーアダプターはその中から気に入ったものを口コミし、それが他の消費者にも拡大することで、新たなヒットが生まれています。
 海外の動きにも敏感なアーリーアダプターは、国外で高評価を得る北海道酪農にも必ず注目するでしょう。既に日本でブランド化している北海道酪農は、こういった海外での反響により再評価され、更に多くの人達に支持されていくと考えられます。
 このように、景観・観光、食など、国内外様々なマーケットで耳目を集める北海道酪農(およびその製品)には、上述の通りそのブランドをより強力なものにしていくための基盤づくりも整ってきています。
 改めて国内外での評価が高まることで北海道酪農は北海道だけでなく、日本を牽引するブランドとしてより一層の強さを持っていくのではないでしょうか。

<参考>

【参考1】
東アジアで人気の「北海道産LL牛乳」
http://lin.alic.go.jp/alic/month/domefore/2009/apr/yusyutsu.htm
【参考2】
食クラスター連携協議体
http://www.fc-nw.jp/
【参考3】
農商工連携88選「ITを活かした日本型酪農用自動給餌システムの開発」
http://www.meti.go.jp/seisaku/local_economy/88/kakusya01.html