北海道のイメージ

 北海道といえば、広大な大自然、牛乳、肉、野菜などのおいしい素材、雪まつりなど、さまざまなものをイメージする方が多いでしょう。
 2016年に開業する北海道新幹線「H5系」は、北海道らしさ(北海道のイメージ)にこだわったつくりの内装を既に公開しています。具体的には、雪の結晶を施したブラインドや流氷をイメージしたカーペット等となります。その中で、グリーン車では乳製品をイメージしたクリーム色が、壁の色となっており全体のトーンをつくっています。
 さらに、JTB北海道が実施した「夏の北海道観光意識調査」(参考1)では、北海道観光のイメージに一番当てはまるものとして、項目別で「牧場」が第1位となっています。
 このように、酪農は北海道ブランドのイメージ形成における大きな要素といえるでしょう。今回はこの北海道ブランドにおける、酪農の役割を考えたいと思います。

調査からもわかる北海道ブランドの強さ

 まずは北海道人気について、数値的に見てみましょう。
 北海道ブランドの強さは全国でも際立ったものがあります。ブランド総合研究所が行った「地域ブランド調査2014」の都道府県ランキングによると、47都道府県で最も魅力度が高かったのは北海道。2009年の調査以来6年連続第1位となりました。この魅力度とともに、観光意欲度、食品購入意欲度も第1位となっており、牧草地などが織りなす景観や酪農体験などのアクティビティ、お土産品でも人気の乳製品等、酪農に関連した要素も北海道ブランドの魅力をつくる大きな要因になっているといえるでしょう。
 東京・有楽町駅前の東京交通会館1階にあるアンテナショップ「北海道どさんこプラザ」は、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)と株式会社ぐるなびが共同で運営する「レッツエンジョイ東京」にて実施したアンテナショップに関する調査の中で、行ってみたいアンテナショップ、行ってよかったアンテナショップのどちらも第1位に輝いています。こちらのアンテナショップの看板商品はソフトクリームとなっており、数ある商品の中でもショップ内売上2位の実績を誇ります。また都内のスイーツランキングでも上位にランクされ、土日はソフトクリーム券売機の前に行列ができています。
 さらに、2014年に日本政策投資銀行が実施したアジア各国を対象とした「北海道観光に関する訪日外国人の意向調査」(参考2)では、北海道を知っている人のうち訪ねてみたいと答えた割合は、富士山、東京に次いで第3位。特に中国や台湾、香港、シンガポールからの観光客においては北海道が第1位となっています。その理由には「自然や風景の見物」が第1位になっており、北海道観光の中で景観が重視されていることがわかります。今後、ますますアジア各国が経済成長する中、安倍政権による円安施策や、アジア諸国への観光ビザ要件緩和が追い風となり、日本への観光客はさらに増えると予想されます。その中で北海道、北海道ブランドへの注目度もさらに高まっていくことは間違いないでしょう。

北海道において酪農が重要な理由

 農林水産省「生産農業所得統計」によれば、日本の平成24年度の農業産出額の合計は8兆6,104億円となっています。その中で北海道が占める割合は12.2%、金額にして1兆536億円となり、第2位の茨城県を2倍以上引き離して圧倒的なトップを誇っています。さらに北海道の中で部門別構成を見てみると「乳用牛」は約36%であり、第2位の「野菜」を2倍以上引き離しています。多くの農産物がつくられる北海道において、酪農は大きな割合を占めているのがわかります。
 さらに、観光という側面では、景観が与える影響はとても大きく、北海道庁の「平成23年度観光客動態・満足度調査」(参考3)でも景観に関する満足度は76.3%と食事の74.9%を上回っています。その景観において酪農は中心的な存在といえます。農林水産省「作物統計」(平成25年確報)によれば北海道の畑作の耕地面積は約92万ヘクタールであり、そのうち牛の飼料である牧草を栽培している面積は約55万ヘクタールと畑作面積の約59.8%にものぼります。牧草地は北海道のほぼ全域に存在していることから、そこにしかない自然や建築物といった固有の風景とは違い、酪農は、北海道全域の風景イメージを形成しているといえるのではないでしょうか。

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酪農が「北海道ブランド」に与える影響

 マーケティング的には、企業やブランドは衰退市場で戦うのか、成長市場で戦うのかによって、業績は左右されます。衰退市場においては、優れた企業や製品であっても、業績を伸ばすことがなかなか難しい一方で、成長市場においては、それなりの企業や製品であっても、業績を伸ばすことが可能です。
 安倍政権が掲げる観光立国政策によって、日本の観光業はますます伸びていくでしょう。成長市場ということもあり、上述のように、日本の観光業の中で大きな魅力を持っている北海道ブランドにはさらに期待が持てます。また、食の分野においても、日本の市場規模は伸び悩んではいるものの、海外での市場規模は拡大しています(参考4)。 海外市場では特に商品のブランド力が重視される傾向にあり(参考5)、すでに日本で確立されている北海道ブランドの乳製品は、海外市場での戦略にとっても大きな武器になると考えられます。
 ただ、もしこの北海道観光の魅力の一つである食・景観を形成する酪農がなくなってしまった場合、北海道の持つイメージ、観光資源が損なわれ、そのブランド力の低下は計り知れないものであり、大きな影響を受けることでしょう。
 海外に目を向けると、日本の乳業メーカーの世界での活躍も目立ってきています。2013年の世界の主要乳業メーカー(参考6)の売上高の順位によれば、売り上げ上位20位までに日本企業が2社入り、3年前より順位を上げています。日本の食品業トップ10の中にも乳製品をメインとする企業が3社入っている点からも、日本内外での乳製品のポテンシャルは高いといえます。その背景には、日本製の粉ミルク人気や、積極的な海外での生産等があげられます。日本の乳製品が海外で評価されるという点においては、これも日本の酪農が評価されることにつながり、乳製品ブランドとして日本国内で確立している北海道ブランドにとってはプラス材料といえます。
 今後、冒頭にあげた新幹線の開業等も奏功し、国内外で北海道といえば酪農を想起する人も多くなり、北海道酪農の影響力は北海道ブランドにとって、ますます大きなものとなっていくでしょう。

<参考>

【参考1】
夏の北海道観光意識調査結果発表 ~JTB北海道調べ~
http://www.bfh.jp/announce/index/618
【参考2】
アジア8地域・北海道観光に関する訪日外国人の意向調査
http://www.dbj.jp/pdf/investigate/area/hokkaido/pdf_all/hokkaido1411_01.pdf
【参考3】
平成23年度観光客動態・満足度調査(北海道)
http://www.pref.hokkaido.lg.jp/kz/kkd/H23doutai_ch3_dougai.pdf
【参考4】
農林水産省 農林水産物と食品の輸出、最前線レポート ニッポンの”おいしい”をもっと世界へ
http://www.maff.go.jp/j/pr/aff/1309/spe1_01.html
【参考5】
中小企業庁 中小企業白書
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/h21/h21/html/k2240000.html
【参考6】
世界の主要乳業メーカー(売り上げ上位20社、2013年)
http://www.alic.go.jp/content/000108875.pdf