毎日の食生活に欠かすことのできない牛乳・乳製品。その日本の牛乳・乳製品を考える際に、北海道なくして語ることはできません。2013年度における生乳生産量は744万7032トン。そのうち384万8584トンが北海道産であり、北海道の全国シェアは51.7%にものぼります(参考1)。地元の酪農家が生産したものは地元で加工し、消費者に販売するケースが大半だった1960年代においては、北海道のシェアは20%程度でした。つまり、この50年の間に北海道酪農の位置付けが非常に高くなったことがわかります(図1)。今回は、そんな日本における北海道酪農の価値を考えていきたいと思います。

(単位:t , %)

年度 全国 北海道 都府県
生産量 生産量 生産量
1966 昭和 41 3,431,300 710,600 20.7 2,720,700 79.3
1970 45 4,789,200 1,205,200 25.2 3,584,000 74.8
1980 55 6,498,100 2,115,800 32.6 4,382,300 67.4
1990 平成 2 8,202,623 3,086,097 37.6 5,116,526 62.4
2000 12 8,414,523 3,622,237 43.0 4,792,286 57.0
2010 22 7,631,304 3,897,287 51.1 3,734,017 48.9
2011 23 7,533,851 3,894,019 51.7 3,639,832 48.3
2012 24 7,607,356 3,930,552 51.7 3,676,804 48.3
2013 25 7,447,032 3,848,584 51.7 3,598,317 48.3

図1:生乳生産量の北海道シェア(平成25年度)(農林水産省「牛乳乳製品統計」。前年比「シェア」はJミルクによる算出)

(単位:kg , %)

年度 生乳単位 乳製品単位
牛乳及び乳製品 脱脂粉乳 バター チーズ
  対前年
増減率
飲用向け 乳製品向け
  対前年
増減率
  対前年
増減率
1965年 37.5 5.9 18.4 8.2 17.7 2.9 0.8 0.2 0.3
1970年 50.1 5.9 25.3 4.1 23.7 8.7 0.8 0.4 0.4
1975年 53.6 3.5 28.1 4.5 24.8 2.9 1.0 0.5 0.5
1980年 66.3 0.9 33.9 1.8 31.0 0.6 1.2 0.7 0.6
1985年 70.6 ▲ 1.0 35.2 ▲ 1.1 35.0 ▲ 0.8 1.5 0.8 0.7
1990年 83.2 3.2 40.8 2.5 42.1 4.0 1.7 1.1 0.7
1995年 91.2 1.6 40.6 ▲ 2.4 50.4 5.2 1.8 1.5 0.7
2000年 94.2 1.3 39.0 1.0 55.0 1.3 1.5 1.9 0.7
2005年 91.8 ▲ 2.2 36.7 ▲ 3.4 54.9 ▲ 1.4 1.5 1.9 0.7
2006年 92.2 0.4 35.8 ▲ 2.5 56.3 2.6 1.4 2.0 0.7
2007年 93.3 1.2 34.9 ▲ 2.5 58.1 3.2 1.5 2.1 0.7
2008年 86.3 ▲ 7.5 34.2 ▲ 2.0 51.8 ▲ 10.8 1.2 1.7 0.6
2009年 84.8 ▲ 1.7 32.7 ▲ 4.4 51.9 0.2 1.2 1.9 0.6
2010年 86.4 1.9 31.8 ▲ 2.8 54.5 5.0 1.3 1.9 0.7

図2:牛乳・乳製品の国民1人1年当たり消費量(消費仕向け量)の推移(農林水産省:食料需給表)

北海道の国内生乳生産量50%超

 2010年度以降、北海道における生乳生産量の国内シェアは50%を超えてきています。過去を振り返ってみると、都府県の生乳生産量が減少し続けてきた一方で、北海道は着実に生乳生産量を増やし続けてきました(図1)。
 冒頭でも記述した通り、1966年度における北海道の生乳生産量は約71万トンでしたが、2013年度を見ると約384万トンとなり、この50年間に5倍以上増加しています。日本における牛乳・乳製品の消費量は、1965 年度には国民 1 人当たり、生乳換算で年間 37.5kgでしたが、2010 年度には2.3 倍の 86.4kg となっています(図2)。一方で、日本全体としては生乳生産量が減少しており、さらに都府県の生乳生産量は1990年度のピーク時と比較するとおよそ30%減少していることから(図1)、現在、いかに北海道酪農の果たす役割が大きいかがわかります。

北海道における酪農のメリット

 農林水産省の「農業経営統計調査(畜産物生産費)」(参考2)によれば、平成24年度の生乳100kg(乳脂肪分3.5%換算)当たりの生乳生産費用合計は北海道が7,918円、都府県が9,231円と、1,105円の格差があります。これは、広大な土地を利用し、飼料を輸入だけに頼らず、自給飼料の増産に注力し、各地域で飼料を一元管理するような仕組みづくりを取り入れる等、コストを下げる工夫が積極的に行われていることが影響しています。また、夏の暑さは乳量の低下の原因となりますが、夏も涼しい北海道では一定の乳量を担保でき、都府県と比べ北海道の気候風土による酪農へのメリットが大きいといえます。

北海道産生乳の用途は乳製品向けが多い

 それでは北海道の生乳はどのように利用されているのでしょうか。実は大消費地である都府県から距離が離れているという事もあり、生鮮食品である飲用牛乳よりも加工したバターなどの乳製品向けに作られているほうが多く、そのシェアは国内だけで生産された乳製品のうち約80%を占めています。北海道産の生乳のうち、飲用牛乳向けのシェアは約20%となっています(参考3)。
 歴史的にいえば、明治時代、政府が北海道の開拓に酪農を取り入れた際、西洋の最新農法を積極的に取り入れることで、北海道の農業・酪農を発展させてきました。その時期に、日本初の貿易港であった函館には西洋料理店ができ、乳製品も積極的につくられてきた背景があり、早くから乳製品の生産も進められていたようです。
 こうした流れとともに、酪農が北海道に定着し生乳生産量が大幅に拡大したことから、多くの乳製品メーカーが北海道に拠点を置き、ますます乳製品への利用が進んだと考えられます。

北海道の酪農の経済規模は3,736億円!

 では、北海道の酪農が生み出す経済規模はどのくらいなのでしょうか。ここでは農林水産省「生産農業所得統計」をもとに、北海道の酪農の経済規模を考えたいと思います。農林水産省「生産農業所得統計」(参考4)によれば、平成24年度の47都道府県農業産出額およそ8兆6,106億円のうち、北海道が占める金額は1兆536億円と都道府県1位となっています。さらに、北海道の中で部門別に見ると、乳用牛の生産額は3,736億円(約36%)で、北海道の全農業産出額中1位となっています。この3,736億円が北海道の酪農が生み出している金額と想定され、規模としては、千葉市、新潟市といった政令指定都市の一般会計予算(参考5)や、日本が世界に誇る文化であるマンガ業界の市場規模(平成24年度)(参考6)ともほぼ同じぐらいとなっており、いかに大きいものかがご理解いただけると思います。

順位 都道府県 産出額(億円)
1 北海道 10,536
2 茨城 4,281
3 千葉 4,153
4 鹿児島 4,054
5 熊本 3,245

図3:農業産出額上位5都道府県(平成24年度)(農林水産省「農林水産統計」)

図4:北海道内農業産出額構成比(平成24年)(農林水産省「農林水産統計」)

図4:北海道内農業産出額構成比(平成24年度)(農林水産省「農林水産統計」)

今後の「北海道」酪農の資産価値

 北海道酪農の経済規模は非常に大きいことがわかりましたが、今後の北海道酪農の資産価値はどうなっていくのでしょうか。
 現在、日本では生乳不足が問題となっています。これは酪農家の離農や気候による生乳生産量の減少が原因とされています。そのため、日本国内における生乳生産量の維持・拡大はますます重要となっており、日本の生乳生産量の50%をまかない、酪農産業を牽引している北海道の需要はさらに高まることが予想されます。
 前述のとおり、都府県に比較すると北海道は広大な土地や気候風土からも酪農に対するメリットが多く、今後も日本の酪農を拡大するポテンシャルを秘めていると言えます。すでに日本の牛乳・乳製品は北海道酪農に支えられていますが、生乳不足をきっかけに今後さらに全国から注目され、北海道経済の支柱となるだけではなく、日本の食卓、経済を支える産業として飛躍的発展を遂げる日が来るかもしれません。