日本の酪農の始まりは明治時代。明治政府が乳業や酪農技術を海外から輸入したことなどがきっかけとなり、北海道や都市周辺の農村地帯で発展していきました。戦後には、牛乳を中心とする学校給食制度も導入され、日本の酪農市場は急速に拡大しました。
 今や日本において酪農は欠かせない産業の一つとなっており、国内における牛乳・乳製品の需要量は約1,172万トン(生乳換算、平成24年度)となっています(参考1)。牛乳はカルシウムが豊富で吸収率に優れています。また、良質なたんぱく質も含まれており、毎日飲んでいる方も多いことでしょう。日本人の主食であるお米の需要量(867万トン)と並んで日本の食文化になくてはならない重要な位置を占めています。
 それでは食料自給率から見て、日本の酪農(牛乳・乳製品)の現状はどうなのでしょうか。日本人の健康づくりを支える酪農の現状を自給率から捉えていきたいと思います。

知っていましたか?牛乳は国産100%!

 日本の食料自給率は、平成25年度においてカロリーベースで39%(参考2)。つまり、食料全体でみれば61%を海外からの輸入に頼っていることになります。実は日本の食料自給率は主要先進国の中で最低水準となっており、世界における食料不足の影響を受けやすい一面があります。
 一方、牛乳・乳製品の状況はどうでしょうか。実は全体の食料自給率に比べると高く、平成25年度において64%。牛乳・乳製品の市場規模は生乳換算で1,172万トンですが、そのうちのおよそ750万トンが国内でまかなわれ、残りを海外に依存している状況になっています(参考2)。ただし、牛乳に関しては生鮮食品ということもあり、全てを国内でまかなっています。すると、牛乳・乳製品はある程度確保できていると思われるかもしれませんが、過去の推移を見ると、自給率が低下していることは否定できません。
 1960年度には牛乳・乳製品の自給率はなんと89%もありました。しかしながらチーズなどの輸入乳製品が増加したこと、日本全体で見れば生乳生産量が減少していることなどから現在は64%まで低下しているのです(参考2)。ただ他の品目と比較すると食料自給率は高く維持されています。この理由の一つに、日本の酪農家の努力と技術力の高さがあります。

乳牛の1頭当たりの年間産乳量は世界トップクラス!

 実は日本の乳牛1頭当たりの産乳量は、世界でもトップクラスを誇っています。日本の乳牛1頭当たりの産乳量は全国平均で8,154㎏(2012年)。毎年増加傾向にあり、生産性は向上しているのです。2012年における乳牛1頭当たりの産乳量では、オーストラリアが5,691㎏、フランスが6,844㎏となっていますから、世界的に見ても四季や面積など生産条件の不利にもかかわらず、それをカバーするような効率的な酪農が日本では行われていることがわかります。遺伝的な改良の他、日本の酪農家は牛の健康や飼料のバランスなども考え、乳牛が最大限の乳量を算出できるように日々努力しているのです。

図1: 経産牛1頭当たりの搾乳量(農林水産省「平成25年度酪農関係資料」)図1:経産牛1頭当たりの搾乳量(農林水産省「平成25年度酪農関係資料」)

図2: 日本の搾乳牛1頭当たりの乳量の推移(農林水産省「牛乳乳製品統計」「畜産統計」)図2:日本の搾乳牛1頭当たりの乳量の推移(農林水産省「牛乳乳製品統計」「畜産統計」)

酪農は農業全体に貢献する側面も

 日本の酪農の技術力もさることながら、酪農が農業全体に貢献する側面を持っていることも忘れてはなりません。酪農により人が直接有効活用することが難しい草を食糧に変え、乳牛のふんは肥料になります。その肥料は畑や水田で利用され、土に戻ります。いわゆる循環型農業の柱として酪農が活かされているのです。循環型農業の利点としては、食品残さなどの再利用に比べても処理コストが抑えられ、生産者全体を関連付けられるため、生産者同士が責任を持ちながら農業システム全体の品質向上につなげることが可能と考えられます。
 私たちが日本の牛乳・乳製品を購入することは、自分自身・家族の健康維持、増進のためはもちろん、日本の生乳生産量の維持や食料自給率アップにもつながります。さらに、循環型農業の基盤にもなるため、日本全体の農作物の生産コストの削減や品質向上にもつながるといえるでしょう。
 日本になくてはならない酪農。食生活の改善のため、長期的な酪農の安定供給のため、日本の農業のため、牛乳を一杯飲んで今一度酪農について考えてみませんか。

<参考>

【参考1】
Jミルク需給見通しに関する補足説明資料
http://www.j-milk.jp/gyokai/jukyu/berohe000000hprd-att/berohe000000hpu5.pdf
【参考2】
平成25年度食料自給率等について
http://www.maff.go.jp/j/press/kanbo/anpo/140805.html