世界において、生乳生産量は拡大しています。にもかかわらず、実際には世界全体でも生乳生産量に対する輸出の割合は10%にも満たない状況となっています。これは牛乳や乳製品が国内消費を基本としており、輸出余力のある国が限られているためです。
 中長期的に見て、世界の人口増をカバーするだけの生乳生産量の拡大を見込むことができればよいのですが、最大の輸出国であるニュージーランドでは生乳生産量が頭打ちになっているなど、世界情勢から考えると輸出に回る割合は減る可能性があります。こうした世界情勢を考慮すると、日本における酪農の重要性は今後さらに増していく可能性が高いといえます。今回は、今後の日本経済における北海道酪農の可能性について考えていきたいと思います。

安定生産される北海道酪農の重要性

 日本人の主食であるお米と並んで日本で生産される割合が高い牛乳・乳製品。国内の生乳生産量を見ると、北海道の生乳生産量は2002年からほぼ3,800~3,900千トンの間で生産されています。一方で、全国の生乳生産量は減少しており、北海道酪農が日本の牛乳・乳製品、さらには食糧を支える側面が大きくなっているといえます。北海道の生乳生産量は比較的安定しているため、都府県における生乳生産量の減少を考えると北海道のシェアは、今後さらに増していくことになるでしょう。

図1:地域別生乳生産量の変化(農林水産省「牛乳乳製品統計」)図1:地域別生乳生産量の変化(農林水産省「牛乳乳製品統計」)

酪農が日本を救う!?

 酪農といえば、牛乳や乳製品ばかりに目が行きがちですが、酪農はその生産過程における土地活用で、耕作放棄地の問題解決や景観保全に貢献しています。例えば、飼料生産を水田で行うことで水田の有効活用の担い手となり、牧草を利用することなどを通して、他の作物の栽培が困難な地域でも経営が可能です。また、農家の高齢化や後継者不足により生じた耕作放棄農地を放牧地として活用することも行われており、日本の国土保全や里山の景観保全にも貢献しているのです。
 そして、酪農体験を通じて、子どもたちへ「食といのち」を考える機会をつくるなど、教育機能も担っています。このように、酪農は相互に支え合う機能を有しており、生産者のみならず消費者、関係者も酪農に対する理解を積極的に行っていく必要があります。
 食だけではなく、環境保全、教育にも一役かっている酪農。今後も酪農は日本の農地や環境の守り手として大きな役割を果たしていくことになるでしょう。現在の海外生乳市場では、中長期的に需給がひっ迫しているため、海外からの輸入に頼ることが難しくなっており、国内での生産基盤を整え、安定的に供給できる体制を整備していく必要があるという事も理解していかなければなりません。
 さらに酪農による循環型経済社会の構築も今後の日本経済を支える面で考えていかなければならないことだと思います。循環型経済社会とは、あらゆる分野で環境保全の対応が組み込まれ、資源・エネルギーが無駄なく有効活用される社会を意味します。
 土地基盤に見合った生産を行い、環境にやさしい酪農を行うことが、安全で安心できる付加価値の高い牛乳・乳製品をつくることにつながり、日本の酪農の価値を高めることにもつながるでしょう。
 さらに、国土保全・景観保全に繋がり、教育機能も担える酪農は今後の日本経済にとっても大きな価値となるでしょう。

北海道の酪農にかかる期待は大きい

 日本の酪農は世界情勢を考慮すると、今後さらに日本にとって必要不可欠な産業となっていくでしょう。特に、北海道の酪農が果たす役割は大きいといえます。
 例えば、都府県の牛乳は、夏場とそれ以外では供給元が変わっています。それは乳牛が暑さに弱く、夏場の都府県では乳量が低下し供給が不足しがちになり、それを北海道からの供給によってまかなわれるからです。さらに、「日本における北海道酪農の資産価値」にも記述したように、北海道産生乳は乳製品向けが大半を占め、そのシェアは日本の乳製品の約80%にあたります。牛乳・乳製品ともに需要と供給の調整に北海道の酪農が重要な役割を担っているのです。
 仮に北海道の酪農が衰退した場合、牛乳・乳製品の需要を満たすことができず、価格が大きく上昇し、日本人の健康にも影響してくることがあるかもしれません。
 実際に「『子どもの健康づくりと牛乳』に関する調査・研究」((一社)Jミルク)によると、中学2年生を対象に踵の骨量を測定(平成19~20年に実施)したところ、給食に牛乳が提供されている学校の生徒の方が、骨密度が高いという結果が出ています(参考1)。牛乳摂取の習慣は骨の形成と関わりが強く、供給が減れば日本人の骨に大きな影響を及ぼすことが予想されます。また、健康以外でも上述したように国土保全・景観保全にも悪影響を及ぼすことになるでしょう。
 北海道の酪農なくして日本の牛乳・乳製品の自給率確保は不可能です。現在、全国酪農家戸数は減少傾向にありますが、国をはじめとした各自治体や団体が様々な制度・補助金を措置し、新規就農支援を実施しています。北海道では、独自に新規就農のための研修牧場を整備する自治体も出てきています。こうした自治体の努力で、都府県では1990年度から2014年度までに75.7%減少している酪農家戸数も北海道では54.0%の減少にとどまっています(図2)。しかし、高齢化や後継者問題、飼料等の高騰により経営が難しくなり酪農家戸数が減少し続けているのが現状です。酪農家の現状を消費者が正しく理解し、適正な価格で購入・消費することで、牛乳・乳製品の安定的な需要供給バランスを保ち、酪農家の減少・自給率の低下を防ぐことにもつながっていきます。
 相互理解を促進するなかで、北海道酪農の取り組みは大きな役割を担い、その動向に消費者も目を向ける必要があるでしょう。

図2:乳用牛飼養戸数推移(畜産統計調査)図2:乳用牛飼養戸数推移(畜産統計調査)

<参考>

【参考1】
「子どもの健康づくりと牛乳」に関する調査(平成19年度)
http://www.j-milk.jp/tool/shokuiku/berohe0000000i6h-att/9fgd1p000000j2cb.pdf