昨今ファームインやファームレストラン、酪農体験など、酪農産業を基点とした観光コンテンツが北海道に増えてきています。まだ酪農景観を目的としたアクティビティは少ないですが、酪農景観を眺めるような展望台や観光道などの整備は徐々に進んでおり、今後観光資源としてのさらなる発展が期待されています。今回は、酪農先進国であるニュージーランドを事例に、酪農景観の観光への活用を考えてみます。

クリーンでグリーンなブランド

 北海道は、酪農をはじめとしたあらゆる農業、さらには豊富な自然がつくるイメージが、雄大で、四季折々の美しい景色をつむぐ地域のブランドを作っているといえるでしょう。そういった意味で、ニュージーランドと似ているところがあります。ただ、ニュージーランドは「100パーセントピュア」という言葉に代表されるように、クリーンでグリーンというイメージを、国を挙げてのブランドとしています。国全体としてそのようなブランドイメージで売り出すのは簡単なことではありません。しかし景観や環境を守っていくという意識の高さを出すことで、海外からの観光客も増え、酪農製品や農産物の付加価値の向上、そして輸出の増加にもつながっています。

酪農景観を利用して観光をつくる

 古くからニュージーランド最大の酪農地帯として知られるのが、北島の北部にあるワイカト地方です。年間を通じ温暖なエリアであることから、放牧に適した場所でもあり、ニュージーランド最大の都市オークランドから日帰りや一泊で気軽に行ける人気の観光地にもなっています。ひとたび町を抜ければ、延々と続く酪農風景を楽しむことができ、畜舎を利用しない放牧ならではの、広々としたのどかな景観で、観光客を魅了します。そんな郊外をドライブしていると、ファームだけではなく地元農産物の直売所やチーズ工場などもあり、ニュージーランド産の美味しいアイスクリームやチーズなどを楽しむこともできます。
 ここは、「ロード・オブ・ザ・リング」や「ホビット」といった人気映画の撮影場所としても知られています。これらの映画は、この広大な酪農景観を活かして撮影を行っており、「ホビット」では牧場の一角に村をつくり、撮影をしました。現在、この牧場や街は映画の撮影場所として、観光客から人気が出ており、世界中から人を集めています。
 北海道も、各地で多くの映画撮影が行われていますが、昨今牧場をテーマにした映画なども制作されており、ロケ地巡りとして牧場景観を楽しむツアーも可能かもしれません。また広大な土地を保有する牧場は、酪農をテーマとしない映画やドラマの撮影場所としても、貴重な存在となるのではないでしょうか。酪農家や地域、企業が協力し合って、牧場内の一部を一般にも解放していくことができれば、こうした撮影場所としても、利用されていく場面が増えるかもしれません。

酪農景観とアクティビティを組み合わせる

 ニュージーランドでは、自然と一体化できるアクティビティも各地に存在します。どこまでも続く牧草風景の中、行われるのが熱気球です。熱気球は風の吹くままに飛ぶため、毎回同じ場所に着地することができません。そこで、一帯の酪農家などと協力することで、どの牧場の中にでも自由に着陸することができるようにしています。さらにウォーキングコースやサイクリングコースが充実しています。原生林を抜け牧草風景の続く丘を進むコースなども多く存在し、牧場内にも整備されたコースがあり、一般開放されているところもあります。また乗馬も、牧場の中を通り抜ける許可をもらっているので、単純に同じ場所をぐるぐる回るというのではなく、牧場を通り抜け、きれいな小川を渡り、森林に入っていくといったコースもあり、地元の人にも観光客にもとても人気があります。
 北海道にも、美しい風景を見ることができる熱気球もありますし、フットパスの整備も徐々に進んでいます。森林の中を駆け抜けるマウンテンバイクツアーなど、年代を問わず楽しめるアクティビティも数多くあります。ただ、そこに酪農景観をメインとするものは少なく、日本の中でも雄大な酪農地を持つ北海道では、その酪農景観という日本の中でも特有の風景を活かし、他のアクティビティと組み合わせることで観光客を惹きつけるものになるのではないでしょうか。
 そうした酪農景観と他のコンテンツを掛け合わせた観光として、北海道の中でも酪農が盛んな十勝にある芽室町では行政と民間が一体になり、酪農風景が楽しめる展望台での期間限定レストランを設け、景観と食を合わせることで観光客を誘引するような取り組みを実施しています。これは、地元の人に自分たちの持つ景観の美しさを知ってもらうことも目的としており、そういった認識を持ってもらうことで、景観をつくる、守るということにも繋がっていきます。景観が人を呼ぶ、ということが理解されれば、地元に住む人たちの意識も十分変わってくるでしょう。

酪農景観と体験を合わせる

 本格的な牧場の生活を垣間見ることができるファームステイも、ニュージーランド各地にある定番の宿泊スタイルです。ファームステイでは、牧場に隣接したお宅に宿泊し家族の一員としてファーマーの生活を体験することができます。ニュージーランドのファームステイは、朝食が付いたベッド・アンド・ブレックファストというのが一般的。朝食を食べたら、餌やりなど簡単なファームでの仕事を手伝ったり、周辺でサイクリングやウォーキング、乗馬を楽しむこともできます。
 北海道でも、ファームインと呼ばれる同様の宿泊スタイルが増えています。ニュージーランド同様に酪農体験をセットにし、酪農景観を楽しむことができ、グリーン・ツーリズムが定着しつつある日本でも認知が広がっています。

酪農景観を観光資源に

 こうしたファームインの拡大や先に述べた芽室町の事例など、北海道にある美しい酪農景観を観光に生かそうという取り組みが、各地で行われはじめています。ただ、こうした取り組みには、酪農家個人のチカラだけでは及ばないところもあるでしょう。ニュージーランドのように、自治体だけでなく国が積極的にPRし、酪農家と観光業界がもっと協力し合うことができれば、酪農景観を新たな観光資源としてもっと活用していくことができ、酪農製品そのものの付加価値の向上にもつながるなど相乗効果も期待できます。そういった、酪農業界だけではない、酪農を取り巻くあらゆるところでの取り組みを生んでいくところに、ニュージーランドの事例に学べるところがあるのではないでしょうか。