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ナチュラルチーズ エッセイ 林美香子

林 美香子さん

【プロフィール】
北海道大学農学部卒業。札幌テレビ放送アナウンサーを経てキャスターとして独立。「食と農」をテーマとした執筆や講演などで活躍する一方、博士(工学)を取得。慶應義塾大学大学院SDM研究科特任教授。北海道大学大学院農学研究院客員教授。著書「農業・農村で幸せになろうよ‐農都共生に向けて‐」など。

essay

北海道の特性を存分に生かしチーズづくりで地域づくりを

チーズの伝統国フランスでは、「一村一チーズ」と言われ、村ごとにおいしいチーズがある。南部の山岳地帯にあるロックフォール村のブルーチーズはとりわけ有名だ。同村はフランス発祥の「味の景勝地(SRG)」にも選ばれており、チーズの製造・販売にとどまらず工場見学も受け入れ、チーズツーリズムを見事に成功させている。

農村の人々が一生懸命作っているチーズを、都会に暮らす人々が食べ支える視点はとても重要であり素敵な精神だと思う。そしてそれが食文化も形成していく。農業国・フランスでは「原産地呼称制度(AOC)」に代表される食品の保証制度を設け、質の高い伝統的なチーズづくりを国を挙げて応援してきた。さらに「美食の会」などの組織づくりにも積極的で、食べ支える人が多方面でしっかり育っていることにも着目したい。

ミルクを加工してチーズを製造・販売し、レストランなどで活用すると、その価値は約60倍になると言われている。それが地域資源の有効活用となり、活性化にもつながる所以だ。先ごろピザの店をオープンした酪農家は、「野菜博士」として知られた故・相馬暁さんに「生乳生産と加工を経営の両輪に」と勧められ、アイスクリームの製造・販売に着手。それを軌道に乗せてから念願のチーズづくりを始め、ピザの店に至ったと言う。近隣のまちにワイナリーがあり「ウチのワインに合うチーズを作って」との要望も後押しをした。

チーズづくりをビジネスとして捉えたとき、酪農家であればチーズづくりのノウハウを持つ人と組むことで、事業をミルクの加工・販売にまで拡大することができる。また、近年では酪農家でなくともミルク購入が認められる場合があり、小さな工房を立ち上げることも可能となった。そのつながりを北海道内だけではなく全国的に求めれば、ひとつの新しい移住スタイルが見えてくる。すでに道外から移住でチーズ工房をたち上げ軌道に乗せている人たちもいて、その事例からも「北海道を挙げて特殊技能を生かした移住支援を」との思いを強くしている。

生産から加工、販売、カフェやレストランでの提供とつないでいくことにより、次々に雇用が生まれる点も見逃せない。近年では、個人工房に加え、農協や地域が中心となったチーズづくりも活発化しており、北海道のチーズ製造の背景はその厚みを増しているように思う。そしてミルクや乳酸菌、チーズ製造機器、すべて道産品で統一した産業クラスターの実現も夢ではないと思う。

チーズづくりも地域づくりも時間がかかる。十分に熟成できるよう、北海道産ナチュラルチーズのファンとして、この地で暮らす消費者として、「食べ支える応援」の意識を常に高く持っていたい。